第54回 サブリース新法 その1

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皆さん、”かぼちゃの馬車事件”って、覚えていらっしゃいますでしょうか?賃貸のサブリースという仕組みを使った巧妙な詐欺事件で、この時は”地方銀行”も詐欺に加担して、大きな社会問題となりました。

そこで政府(国交省)は、”サブリース新法”を2020年に制定し、サブリースが健全な事業としてその社会的役割を果たすこととしました。

弊社も一部”サブリース”を活用して事業を展開しており、このサブリース新法制定の経緯は承知しておりましたが、今回、ある事案で国交省でサブリースを担当する役人と直接話す機会があったので、その件を今回と次回、2回のコラムでご紹介いたします。

まず、サブリースの仕組みについて説明します。

ハウスメーカーにとって、”大家”というのは非常に上得意の客となります。通常、戸建て住宅の場合、そこに住みたいという客=実需を探すのは非常に難しく、基本”待ち”となります。

しかしながら、土地を持っている地主にアパート経営を持ちかけ、建物を建てさせるのは”攻めの営業”となりハウスメーカーは自分の土俵で戦えます。この場合、地主にとって一番のハードルは”賃貸経営”です、”自分に出来るか?”。

そこでハウスメーカーが、地主の土地に建てた建物を”一括借り上げ”し、実際の賃貸経営はハウスメーカーが行うという仕組みを作りました。この仕組みであれば、地主は何もしなくても、毎月一定の家賃が入ってくることになりますので、ハードルは確実に下がります。

この仕組みがサブリースと言われるものです。これには2つの契約が存在します。一つは、入居者様がハウスメーカーと結ぶ”サブリース契約(賃貸借契約)”と、ハウスメーカーが土地と建物の所有者と結ぶ”マスターリース契約(特定賃貸借契約)”となります。

ハウスメーカーにしてみれば、戸建て住宅は実需がなければ、商品である建物は売れませんが、賃貸ならばサブリースの仕組みを使って、戸建てよりはるかに高額な賃貸の建物を販売することができます。更に、サブリース契約に従い賃貸経営をすれば、そこからの収益も見込めます。

サブリースの仕組みがいつ頃確立したか承知しておりませんが、多分30年くらい前にはスタートしていたと思います。

”実需がなくても、ハウスメーカーは真面目に賃貸経営をすることにより、需要を作り出し、本業である建物を販売する”、という、マーケティングの理にかなった仕組みで、当初は何も問題なくサブリース事業は広がっていきました。

ところが、最初は大手ハウスメーカーだけだった市場に、2番手、3番手のハウスメーカーが参入した際、本業である建物を売らんが為のトークが先行し、実際に入居者が集まらないという事態が発生するようになりました。

ハウスメーカーと所有者とのマスターリース契約は、基本普通借家契約ですから、借り手であるハウスメーカーの権利は通常の入居者様同様非常に強く、極端な話1か月前の通告で契約を解除することができます。ハウスメーカーにしてみれば、既に建物の代金は回収済ですから、収益が悪い賃貸経営から手を引くことが出来るので、願ったり叶ったりです。

その場合困るのは、建物の所有者です。もともと賃貸経営などやったことがない地主ですから、大きな社会問題となりました。ただ、この時点では、サブリースに関する法令の整備の気運はありませんでした。

その次に現れたのは、”かぼちゃの馬車”です。従前のサブリース事業者は、地主に建物を販売することを目的としておりましたが、”かぼちゃの馬車”は、土地を持っていない人、つまり、一般の人に”土地と建物を販売し、サブリースにより賃貸経営はお任せください”と営業しました。これは完全に”投資”です。

そこでターゲットにされたのが、大手企業のサラリーマン、借入さえ出来れば、土地と建物の所有者となり、賃貸経営をすることなく、毎月収益をあげられる・・・あるいは、サラリーマンの高い税額を損益通算することにより、税金を少なくすることができる・・・。

話だけ聞いていると、悪くないですね! しかし、普通は土地と建物を購入する資金を賃貸経営初心者のサラリーマンに融資する銀行などありません。そこで現れたのが件(くだん)の地方銀行です。この地方銀行はかぼちゃの馬車と組み、融資の際の資料の改ざんを行い、本来融資されない人にも融資しました。

それでも、”かぼちゃの馬車”が真面目に賃貸経営をし、収益を上げていれば、社会問題になるようなことにはなりませんでした。ところが、かぼちゃの馬車の商品=建物の品質は非常に悪く、それを相場より高く売っていましたから、賃貸経営が破綻するのは誰の目にも明らか、実際破綻し、融資した地方銀行が回収に乗り出しました。

ここで地方銀行の改ざんの事実が発覚し、大きな社会問題となりました。

==次回に続く==