本題に入る前に、まず私の大家としての立ち位置を明確にします。
”自分が住みたい部屋”、これが大家としての私のコンセプトです。具体的には「安全」「便利」「個性」をキーワードに、入居者様に選んでいただくお部屋を提供することを第一に考え、賃貸経営を営んで参りました。ですので、国交省がどんな住宅施策を立案しようが、基本関係ないと思っています。
但し、私が大事にしている”全体最適(持ち家も賃貸も住む人が一番大事)”という観点から、国交省の住宅施策が、賃貸を対象から除外していることを知るにつけ、”本当にこのままでいいのか?”と感じている次第です。
さて、本題です。
皆さんは、”マンション管理計画認定制度”という制度をご存じでしょうか?令和4年4月から施行された制度で、その目的は、”マンションに管理計画が無いことにより、将来その建物がスラム化、最終的には「自治体による強制代執行」にならないようにする制度”と、私はその成立過程をWatchして、自分なりに解釈しました。
高度成長期に建てられたマンションが、今築50年、60年を迎えております。
ほとんどのマンションには管理組合があり、委託された運営会社が建物の維持管理に努めております。
半面管理組合がなく、建物の老朽化を止められないマンションが多数存在するのも事実です。建物は寿命が来たら、取り壊すか建て直すというステージに入りますが、そこまでの過程で”いかに老朽化を食い止めるか?”がポイントとなります。
そもそも、”強制代執行=行政が税金を使って建物を取り壊す”など、あってはならないことです。
しかしながらその懸念が現実見なものになるにつけ、国交省は新たな制度を創設し、”建物をしっかり管理した場合には、固定資産税を減免する”という施策を打ち出しました。
もう一つの観点から。災害大国日本においては、”大規模災害発生時には、この道路は緊急車両専用となります”という告知を多く目にすると思います。もし災害が発生し、老朽化した建物が重要な道路を塞いでしまったらどうなるでしょうか?実はそのようなリスクが多数存在するのも、”管理計画認定制度”が発足した要因の一つになっております。
その主旨には私も賛同出来ます。しかしながら残念なことに、この制度の対象は”マンション”に限られます。
この制度の目的を考えた場合、本当にマンションだけが対象でよいのでしょうか? 強制代執行せざるを得ない老朽化した建物は、オフィスビルや賃貸でも同じです。災害時、緊急用の道路脇に建っているオフィスビルや賃貸の建物が倒れたらどうなるのでしょうか?
似たようなケースで、”マンションの建て替え要件の緩和”というのがあります。老朽化したマンションは、住人がそのまま住み続けるためには”建て替え”しかありません。従前は、全所有者の80%が賛成しないと建て替えが出来ない仕組みで、事実上建て替えは不可能でした。この問題を解決するために、現在では総会に参加した所有者の75%の賛成で建て替えが可能となりました。
マンションは、多数の区分所有者がおり、100%の合意は無理ですので、上記のように改善された訳で、そこにオフィスビルや賃貸を考慮する必要はありません。なぜなら通常マンション以外は、所有者は限られた個人・法人で、建て替えの意思決定はオーナーが単独で出来るからです。
しかしながら、”管理計画認定制度”が創設されたもともとの理由、管理されない建物がスラム化、強制代執行の可能性がある、災害時交通の妨げになる可能性がある・・・は、上記に挙げたマンション、オフィスビル、賃貸、どれも同じです。もちろん、一義的にはマンションを含めてオーナーが対処すべき問題です。しかしながら、それが出来ない老朽化した建物が多くなっているから問題なのです。ここで”べき論”を論じても意味がありません。
管理計画認定制度は、”飴と鞭の制度”です。しっかりした管理計画を作るという鞭に対し、固定資産税を減免するという飴、この“飴と鞭”の施策に、なぜオフィスビルや賃貸が入らないのでしょうか?
もちろん、持ち家と賃貸は別々の施策があって然るべきです。しかしながら、この施策の目的は”建物の老朽化を防ぐ”です。そこに持ち家も賃貸もありません。
もし国交省がその制度設計の過程で、オフィスや賃貸もマンションと同じ土俵に上げ、そのうえで何を対象とする/しないを判断、その理由を明確に示し、それを国民が理解・納得していれば何も問題ありません。
しかしながら、私が上記疑問を国交省に電話で何度問い合わせしても、全く内容のある回答は得られませんでしたし、文書により正確に論点を伝え回答を求めても全く無視です。
私の行動は、私個人の利益を求めるものではありません。たまたまこの制度の主旨やその過程を知っていたので、”本当に現状の仕組みで国民生活を守るという目的を達成出来るのか?”と疑問を持ったに過ぎません。
残念ながら過去から現在に至るまで、賃貸のことを真剣に考えている国交省の役人は居ない、というのが私見です。もちろん、これは大家に対して何等かの便宜を求めるというレベルのことではありません。国交省が賃貸を蔑ろにするということは、最終的には賃貸にお住まいの入居者様の生活レベルを落とすことになりかねないと私は懸念している次第です。
本当に心配です、国交省がこのままの姿勢を貫き通していくならば・・・・
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私は一国民であって、国交省でどんな議論がなされているのか詳細を知る立場にありません。ですので、上記の論点は的を外している可能性もあります。ただ、どの部分が”的が外れているか”を議論することにより、その実態が見えてくると私は考えます。少なくとも、国民の疑問に答えないとか無視するということは、あってはならないことだと思います。
(写真は国交省のHPより抜粋: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001749369.pdf)